動物の言葉
むかしむかし、ワリス州という所に、年老いた伯爵と息子のハンスが住んでいました。ハンスは、とても物覚えの悪い少年だったので、みんなはハ
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むかしむかし、ワリス州という所に、年老いた伯爵と息子のハンスが住んでいました。ハンスは、とても物覚えの悪い少年だったので、みんなはハンスを馬鹿にしていました。ある日の事、伯爵は息子の将来を心配して言いました。「ハンス、お前はこれから遠い国へ行って、しっかり勉強をして来なさい。お前には立派な三人の先生をつけてやるからな」「はい、わかりました」こうしてハンスは三人の先生の下で、何年も勉強をしたのです。やがてハンスが帰って来ると、伯爵が尋ねました。「ハンス、お前どんな勉強をしてきたのだね?」するとハンスは、うれしそうにこう答えました。「お父さん、ぼくは一生懸命に勉強をして、カエルと犬と鳥の言葉がわかるようになりました」「なに?カエルに犬に鳥の言葉だと?それはもしかして、ゲロゲロ、ワンワン、チュンチュンか?」「はい。そうです」伯爵は、思わず頭を抱えました。「わたしはそんなくだらない事に、あれほど高い金を払ったのか?・・・もういい、お前はこれから、牛やヒツジの世話でもして暮らすがいい」こうしてハンスは、伯爵に家を追い出されてしまいました。ある日の事、ハンスが道ばたに座ってぼんやりしていると、二人の旅人が通りかかりました。ハンスは、旅人たちに頼みました。「ねえ、おじさんたち、ぼくを連れて行ってよ。お金はないけど、動物の言葉ならわかるよ」「動物の言葉?変な奴だが、まあ、一緒に来たいのなら来ればいい」こうしてハンスは、旅人の仲間になりました。三人が並んで歩いていると、沼のそばの草の上でカエルが鳴いていました。それを聞いたハンスは、旅人たちに言いました。「このカエルが、言っているよ。この先の村で女の人が病気で寝ているけど、自分たちの下に生えている薬草を飲ませると、すぐに治るって」「何を馬鹿な。カエルがしゃべるはずがないだろう」旅人たちが相手にしなかったので、ハンスは一人でカエルの下に生えている薬草をつみました。三人が村につくと、本当に女の人が死にそうになっていました。そこでハンスが取ってきた薬草を飲ませると、女の人はたちまち元気になったのです。「あなたのおかげで、こんなに元気になりました。お礼に、金貨を差し上げましょう」これを知った二人の旅人はハンスがにくらしくなって、さっさと先に行ってしまいました。残されたハンスは、仕方なく一人で旅を続けました。夕方になると、ハンスは近くのお城に一晩泊めて欲しいと頼みました。すると城主が出てきて、ハンスに言いました。「下の塔でよければ、泊めてあげよう。ただし塔には血に飢えた恐ろしい犬がいるから、気をつけるんだよ。実はさっきも、二人の旅人を食い殺してしまったんだ」でも、ハンスは平気です。「犬なら、言葉が話せるから大丈夫です」次の朝、ハンスは無事に塔から出て来ると言いました。「あの犬たちは、塔の下にあなたの先祖が埋めた宝物の見張りをしているそうです。その宝物がなくなれば見張りの役目が終わるので、もう人を食い殺したりはしないそうですよ」城主が塔の下を掘ると本当に宝物が出てきて、犬が急に大人しくなりました。城主はとても喜ぶと、ハンスを手厚くもてなしてくれました。やがてハンスは、ローマへ向かって旅に出ました。ローマでは、ちょうど法王さまがなくなったので、誰を跡継ぎにしようかと人々がなやんでいました。すると、ある神父が言いました。「神さまの不思議な力が、法王さまになる方を教えて下さるでしょう」ちょうどそこへ、ハンスが教会の扉を開けて入ってきました。するとどこからか二羽のまっ白いハトが飛び込んできて、ハンスの肩に止まりました。それを見た神父が、声高らかに言いました。「あなたこそ、法王さまになるお人だ」「えっ?ぼくが法王に?」ハンスが困っていると、肩に止まった二羽のハトが言いました。「ハンスさん、引き受けなさい。これがあなたの運命ですよ」「そうですよ。あなたなら、立派な法王さまになれますよ」「うん、わかった。それじゃあ、法王さまになるよ」こうしてハンスは、法王さまになったのです。
おしまい
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